まずは材料

10年位前NHKスペシャルでどこかの国宝のお寺(どこか忘却)の修復事業をやっていました。当時で前回の修復時の記録画像として屋根葺きをものすごいスピードでやっている職人さんがいて衝撃を受けました。なにしろ何をやっているかわからない。口に含んだ釘を取りに行ってその次のアクションがあるかと思ったらもう板が打ち付けられている感じ。白黒で説明がなかったので本当に何をしているかわからなかった。

僕はその屋根葺きのスピードに圧倒されて「屋根葺き」こそがすごい技術だと思い込んでばかりいました。ところが昭寛さんと話してみると「屋根葺き自体は誰でもできる」と言い切ります。まあ確かに柾葺きの板は薄いし丁寧に並べて丁寧に釘を打てば釘打ち自体はそこまで難しいものではない。職業として要求されるスピードさえどうでも良ければどうにかなるかもしれない。

それよりも「柾(まさ)」を割ることが難しい。

そして柾になる木を選ぶこと。

まず材料選びこそが全てだと何回もいわれました。

いい材料があればパカーンと簡単に紙をはがすようにできるけど、そうでないと何倍も手間がかかるそうです。

柾用の材料は目のまっすぐ通った一番よい材料なので、昔はどこの土場でも一番良い材料をまさ用によけてあったそうです。木に携わっていると木は多少なりともねじれて育つものが多いことを知っています。このねじれの方向も重要らしくまっすぐが一番よいけども、左向きのねじりなら良いけど右向きは葺いた後に浮き上がってダメなんだとか。このねじれの方向との関連についてはコレを書いている時点でまだ実際に屋根を葺いていないのでまだよく理解できていません。

材料はエゾマツかトドマツ。トドマツの方が比較的簡単だけど材料としてはエゾマツの方がちょっと良いらしい。そしてやはり植林よりは天然ものの方が粘りがあって良いそうです。

太さは直径40センチくらいが理想的だけどもう少し細くても作れないわけではないそうです。割る枚数が多くなってしまうから手間が増えるということみたいです。

ちなみに北海道の山林関係の業界用語か全国で通じるかわかりませんが針葉樹のことは「アオキ(青木)」それ以外の広葉樹は「ゾウキ(雑木)」と呼びます。親方やその周辺の方々、山林関係の方と話しているとたまによくわからない業界用語が飛び交うので話のひと段落したところで「それはなんのことですか?」と聞いて回ることになります。それもまた楽し。


村からでた丸太をたくさん置いてあるところに行って材料を選びます。昭寛さんは村内の山林関係(に限らずですが)において絶大な尊敬(権力ではなく尊敬ね)をかちえているので「好きなの選んで持っていっていいよー」となります。積んである丸太をパパッと見てこれはアテだとか何とかがよくないとか、やはりなかなかコレというものが見つからない。

結局そこらに転がっている追い上げ材(大体で切って下ろして最終的に決まった長さにするときにあまった半端の部分)が以外とよいので持って帰って試しに割ってみるべ、となりました。

トラックがないので一緒にいた山崎さんがトラック持ってる人に電話。すぐきてくれました。この辺りの団結力がさすが。

写真の左の方も超ベテランの方。森さん。昭寛さんも森さんも若いのがくると面倒くさがらずに色々といそいそと教えてくれます。

こういうので森さんがトラックにのせてくれます。グラップラーといいます。つかむだけではなくなんとチェーンソーもついててその場でチュイーンと切れます。ものすごく器用。たぶん卵を持ってったら、殻を割らずに掴むというのをこれみよがしにやってくれるでしょう。本当に手足のように使いますね。